『「天趣域」について知ろう』

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なんでだろう?こんなに素晴らしい所なら、もっと人がいてもおかしくはないのに。 好奇心で少し歩き回ってみたが、人影はおろか人の気配すらなかった。 上を見上げると螺旋階段で繋がれた二階スペースがあったが、そこにも人がいる気配はない。 まぁ、これならミルがここの管理人を大声で読んでいたことも頷ける。 何せ迷惑に思う人が居ないのだから。 「ん?」 ふと立ち止まった本棚で、気になる本を見つけた。 「『天才!マーリンちゃんの研究レポート其の三千六十五』……?おいまさか」 念の為に他の本も見てみたが、悪い予感は的中した。 『三千六十四』『三千六十三』『三千…… 思わず溜息をこぼす。 なるほど。誰も来ないわけだ。 どうやら「マーリンちゃん」はかなりの変人らしい。 あぁ……これは先が思いやられる。 再び溜息をひとつ。 だが、とは言えこの本はこれほどの魔術を扱える人間が書いたレポートだ。 元々本は嫌いではないし、魔術の勉強のひとつにはなるかもしれない。 と、お気楽モードに入り、「三千六十五」を手に取った瞬間だった。 何かが揺れた。 いや、正確には、「目の前の空間が揺らいだ」。 「……?なっ!?」 「あれっ!?」 一体何事かと目を凝らしてみると、突然何かが現れ、俺の額に鈍い衝撃が走った。 「「い、いったぁぁあ!」」 何だ、痛い、何があった、痛い、どうなってる!? 一向に状況が飲み込めない。 なんだこの痛みは。 そして俺とハモった声の主は一体誰だ? 「もう、一体……?もしかして座標ミスったっすか……?」 見ると、フード付きの白いローブを羽織った小柄な人物が、額を押さえてふよふよと浮いている。 ……浮いている!? 「あの、大丈夫、ですか?」 なんとか痛みを抑え込んだ俺は、その人物に声をかける。 その人物……顔はフードでよく見えないが、声からして少女か?……は、その澄んだエメラルドグリーンの瞳をこれでもかと見開いた。 「あ……自分は大丈夫っす。もしかして、お客さん?」 「あ、あぁ、まぁそんな所かな」 「これはこれは、申し訳ない!少し転移座標を間違えてしまったようで……いつもならこんなことないんすけど……」 なるほど普通の少女だ。この世界では、割とどこにでもいそうな。 だが宙に浮いている。あと転移座標とか言い出した。 とりあえず、名前を聞いてみよう。 「大丈夫だよ。ところで君は?」 すると少女は咳払いをひとつ。 そしてフードを取り払うと、宙に浮いたまま、やや胸を張って答えた。 「よくぞ聞いてくれました。我が名は『マーリン・マーリ・マーリン』!ここの管理人、そして国家最強の天才魔術師とは自分のことっす!」 「へー、マーリン……マーリ……」 へ? 「マーリンさん?」 「いかにも!」 なにぃぃーーー!?
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