『「天趣域」について知ろう』

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「あ、あなたがあのマーリンさん!?この空間を維持しているっていう凄腕の!?」 「堅苦しいのはよしてほしいな。いかにも自分がマーリンだよ。あ、でもでも、凄腕とかそういうのはもっと言ってくれていいっすよ!」 人は見かけによらないというが、目の前にいるこの少女、よく見れば見るほど本当にただの少女だ。 瞳と同じ色をしたくせっ毛の髪があどけなさを演出している。 背丈はミルと同じ程度だろうか。 えっと、俺が170で、ミルが俺の肩程度だから、160にも届かないくらいか? そんな子がこの図書館の管理人で、しかも凄腕の魔術師だなんて。 「……?自分の顔に何かついてたっすか?」 「あっ、いや、なんでもないよ、マーリンさ……マーリン」 どうやらじっと見つめすぎたようだ。 いけない。流石に失礼だった。 「あっ、わかった!今自分のこと美少女って思ってた?どう?当たりっすか?」 「へ!?いやいやいやいや、それは違うって!断じて!」 「そこまで否定されるとへこむっていうか……」 「あ、そんなつもりじゃ!?」 いけない。また失礼を働いてしまった…… 「なんて冗談スけどね。こんなナリ(少女の)でも一応この国じゃ一番の魔術師やってるんすよ」 「!心が……?」 「いや、思いっきり顔に出てたね。はっきりと」 「ぐっ」 からかわれているのか。 どうやら俺は分かりやすい性格のようだ。 「と、こ、ろ、で」 「はい!?」 マーリンは突然ずずいっと迫ってきた。 「キミが手に持ってるソレはもしかして研究レポート其の三千六十五っすか!?ぜひ名前を聞かせてくれないかな!?」 「お、おお!?えっと、俺は鈴谷和人。この本は本棚にあったからつい手に取って……」 「ほほう、和人君か。そうかキミはつまり!」 「ひぃ!?」 何だ、この本はなにかまずかったのか!? 「自分の研究に興味があるってことだよね!?」 「へっ」 「いやー、自分の言ってることが難しいのか、話を聞くどころか誰もレポートを読もうとすらしてくれなくてねー。興味を持ってくれる人がいるってことがうれしいんスよー」 「あ、あぁ……なるほど」 殆ど合点がいった。 つまりここの蔵書は難しいと。 マーリンが天才すぎるが故に誰も彼女に近寄らないと。 それならばこの人の少なさの理由も完璧に理解できる。 「そうと決まれば、さあさあ、早速お話の時間っす!」 「えっ、ちょ」 気付けば腕をがっしりと掴まれ、空中を飛んでいくマーリンに引きずられている形になっていた。 「いやー、何せ久しぶりでね。何から話そうかなー。まずは魔術定理かなー、それとも第四魔術式の基礎構造かなー」 「あの!?」 これはまずいのではないだろうか。 いくら興味があるとは言っても俺はズブの素人だ。 現に彼女の言っていることがちんぷんかんぷんだし、いかにも話が長そうだ。 このまま連れて行かれたら朝までに帰れるかすら怪しい。 「そうだ!やっぱり第一魔術における四大元素との結び付きからっすね!」 何だそれは!? 誰か、誰か助けてくれ! 「はいはい、そこまでですよ、マーリンさん」 ミ……ミルぅ!
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