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「へえ、それは驚いた。キミは異世界人だったのか」
事のあらましを話すと、マーリンはとても興味深そうな顔をした。
「それで……何だ、光の珠?のことについて聞きに来たわけっすね」
「そうなんだ。ここに来る直前の記憶がそれしかなくて……」
「なるほど……」
マーリンもまたシオンと同様に頭を捻る。
「どうですか?何か分かりそうですか?」
「いや、残念だけどミル、自分もその光の珠というのは聞いたことがないっす。魔術でもなさそうだし……」
「そう……ですか……」
「……」
そうか……まぁ、流石に天才魔術師とは言え、光の珠を掴むなんて事例は専門外だろう。
仕方ない、帰ってシオンに報告して、取りあえずこれからどうするかを考えるか……
「……いや、ただ」
「ただ?」
「和人君、この世界は、あらゆる『理想』を詰め込んだ理想郷だっていうのは知ってるよね?」
「うん。シオンに教えてもらったよ」
確か、この世界には理想とされるものしか入ってこない。異世界人という例外あり。みたいな感じだった。
「もしキミが、この世界に流れ込む理想に紛れて入ってきたのなら……いや、これは仮説だけど……」
「な、なんだ?早く言ってくれ」
「キミはその手に、『理想』を掴んだのかもしれない」
「は……?」
理想を、掴む?
それってまさか、この世界に流れ込んでくるはずだった理想を一つ、俺が掴んじまったってことか?
「つまり、光の珠の正体は『何かの理想』そのものだったということですか?」
「あくまで仮説っすよミル。でもこれが本当なら、この世界の仕組みそのものに迫る重大な手がかりなのかもしれない」
重大な手がかりって、俺が?
そんなに大事なのか、この事態は。
「和人君、最近なにか変わったことはないっすか?例えば妙な力が使えるようになったー、とか」
「変わったこと……」
「どんな些細なことでもいいんすよ」
うーん。
変わったことと言えば自分を取り巻く環境だけど、妙な力を使えるなんて感じはしないし、特には……
いや、待てよ。ほんの少し気になることがある。
「あの、もしかしたらなんだけど、少し力が強くなったのかもしれない。あと食欲が増した」
「ほう、腹ぺこ力持ちに?」
「誰が腹ぺこ力持ちだ!」
そう、それは、先日フランシウム家で目覚めた際、自分の頬を抓った時だ。
あの痛みは明らかに強かった。
それにクッキー。普段ならあんなにばくばく食べることは無い。心無しかお腹が空いていたような……そう言えば夕飯も、今日の朝食の時もやけに空腹で、いつもより多く平らげてしまったんだった。
「そういえば、今朝もたくさん食べていらっしゃいましたね」
「もしや力が増してエネルギーを必要としてる……?これは気になるっすね」
「気になる?」
「キミの体が」
「いっ!?」
「変な意味じゃないっすよ。その、期待しないで欲しいっす」
「期待してない!頬を赤らめるな!」
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