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「今日は本当にありがとうございました」
「いいってことっすよ。またいつでも遊びに来て欲しいな。和人君も、キミはもうお友達っすからね」
「はは、ありがとう。そのお友達って言うのはそのままの意味で捉えていいんだよな?」
「··········」
いや返事しろよ!
ともかく俺とミルはマーリンに礼を述べ、図書館を後にした。
何はともあれ、不本意ではあるが、かなり不安ではあるが、ここにはまた来なければならないだろう。
この国一番の天才魔術師、彼女は頼りになる。
最後の『お友達』に『観察対象』とか『実験材料』といった意味合いが含まれていた気がするのは恐らく多分きっと気のせい。気のせいだ。
「いやー、それにしても、今日は色々ありましたね」
「確かに、色々あったなあ」
ミルと王都を歩きながら、俺は今日の出来事を思い浮かべる。
初めての街。引ったくり。警ら隊。妙な下痢男。図書館。天才魔術師。そして、自分の能力。
「はあ……」
思い返すと濃すぎる一日に、思わず溜め息が零れる。
天趣域についてより何よりも、自分について知ったことが何よりの衝撃だった。
「どうされました?まさか、お腹が空いたんじゃ……!?」
「いや、今んとこ大丈夫だよ。ちょっと今日のことを思い返してたんだ」
「あぁ、なるほど。でも気をつけてくださいね?」
「もちろん」
もちろん分かっている。
今日の話、
『キミの体は常にエネルギーを必要としている状態っす。空腹は命取りっすよ!最悪の場合、死ぬなんてことも有り得るんすから』
マーリンによると、俺はエネルギー補給を怠ると死ぬ危険性があるらしい。
これでどんどん腹ぺこ街道まっしぐらな気がする。
しかし死ぬと言われたら食べるほかないだろう。
まだ死にたくはない。
「そう言えば、和人さんの力って、一応『魔法』ということになるのでしょうか?」
ふむ。
確かにそう言えば。
「えーっと。魔力を使わない力ってことだし、いや、厳密には変換して使ってるけど……まあ、魔法ってことでいいんじゃないかな」
「それじゃあ和人さんは魔法使いになったってことですね!いいなあ……」
いい、か。
「怖くないのか?」
「へ?」
「俺は魔法の力を宿してるかもしれないんだぞ。普通、怖がったりとかしないのか?」
「あはは、何を言ってるんですか。和人さんは和人さんですよ。まだ二日の付き合いですけど、その力を悪用するような人には見えません」
「そ、そうか……ありがとう」
「?お礼なんていいんですよ。もう一緒に暮らす家族みたいなものなんですから」
「ミル……」
ミルは、突然この世界にやってきた異世界人であるこの俺を、こんなにも信じ、恐るどころか親しくしてくれている。
ミルだけじゃない。シオンだってこんな俺を家に置いてくれて、マーリンも見ず知らずの俺のために知恵を絞ってくれた。
……そうだ、どんな力も、どう使うのかは俺次第だ。もしそんなものが宿っているとしても、俺はであればいいんだ。
溜め息なんて吐いてる時じゃない。
「そうだ、和人さんはその力でなにか出来ないんですか?」
「う?確かに気になる。どれどれ」
試しに掌に意識を集中させてみるが、ぷすんっという感覚がしただけで、特に何も起こらなかった。
「ま、できないよな。意外としょぼい魔法なのかも」
「まあまあ最初ですから。これからです!これから!」
……うん。そうだ、そうだな。
「確かにそうだ」
俺の天趣域生活は、まだ始まったばかりなのだから。
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