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「うー……、なんで起きてるの~…」
「なんでって、今日はお前の誕生日じゃん。お祝い、毎年するって言ったじゃん」
正確には昨日か、なんて小さく笑うその様子さえ今の私には涙腺刺激物だ。
たまらなくなって、結局私は努力むなしく涙をぼろぼろこぼしてしまった。
そんな約束、付き合う前に言った言葉なのに守ってくれるなんて思わないじゃない。
期待したって、がっかりしたって、絶対なんてないんだよって思ってたのに。
明はいつもひとつひとつを大切に、私に与えてくれる。
だからかな。こんなことで、子供みたいに泣いてしまうのは。
「どうした、嫌なことあった?」
片膝をついて屈んだ明がぽんぽん、とやさしく私の肩をなでるとぎゅっと抱きしめてくれる。立ち上がる気力も起きなくて、そのまま私はしがみつくように抱きしめ返した。
「ちがう、嬉しいの。ごめんね、私が約束ダメにしちゃった……」
「そんなことか」
「そんなことじゃないのに~…!」
さらに涙声になる私に、明は困ったように笑うと少し体を離してそのまま――…
私を、抱き上げた。いわゆる、お姫様抱っこというやつだ。
「え、ちょっと…!?」
「お、涙引っ込んだ」
「引っ込むよ!驚くじゃん!」
私の身長は160センチ、照葉180センチ。これはなかなか怖い。
ぎゅう、と首元へ腕を回すようにして抱きつくと照葉吐息混じりに小さく笑ってそのまま私の額に口づけを一つ落とした。
「1日遅れようと、1週間先に延びようと俺には大したことじゃないよ。俺にとっては、小百合の誕生日を祝うことに意味があるの」
「……うん……」
「よし」
小さく頷く私を確認すると、明は優しい声色でそう頷き返して玄関へ下ろしてくれた。
そのまま後ろ手に扉を閉める様子をじっと見ていると、明は不思議そうに私を見つめ返してきた。
「なに、どうした?」
「扉、閉める姿もかっこいいなあと思って」
「何、急に…」
「ふふ、なんとなく」
照れた時の明は、視線を逸らして小さく鼻を押さえる。
それがなんだか可愛くて、好きだ。
「で、小百合さんは誕生日今から祝わせてくれるのかな?」
「あ、明がいいなら…」
何のためにこんな時間まで起きてたと思ってんの?なんて真顔で言うから、今度は私が少しだけ…恥ずかしくなってしまった。
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