優しい人、優しかった人

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志信は拳を握り、ギュッと唇を噛みしめた。 (ホントにひどいよな…。隣にいるのはオレなのに…寝言で他の男の名前呼ぶとか……。) “浩樹” 薫の口からこぼれた、他の男の名前を呼ぶ甘い声が、志信の耳の奥で何度も響いた。 (オレの事は名前で呼んでくれた事なんてないのに…。) おかしくなりそうなほどの嫉妬に苛まれ、志信は薫の方を見る事もしないで歩き続ける。 (泣かされたくせに…つらい思いさせられたくせに…それでもそんな男の名前を呼んで泣くほど好きなのか…?) 「ねぇ…待ってよ、笠松くん…。」 薫は小走りに志信の後を追う。 さっき立ち寄った公園をもうすぐ通り抜けようかと言う時、それまで前を向いて黙って歩いていた志信が、立ち止まってゆっくりと振り返った。
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