切なさに身を焦がす夜

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そこには浩樹の姿があった。 驚きのあまり、思わずビールの箱を落としそうになる。 「おっと、危ない。」 浩樹は薫の手からビールの箱を取りあげ、軽々と持って歩く。 「家まで持つよ。」 薫は慌ててビールの箱を取り返そうとする。 「…結構です。大丈夫ですから。」 「遠慮しないで。そんな荷物まで持って、こんな重い物を運ぶなんて女の子には無理だよ。」 スタスタと歩いて行く浩樹の背中を、薫は黙って追い掛けた。 (なんで?あなたは私を騙して捨てたんでしょ?あなたには奥さんと子供がいるんでしょ?) あんなにひどい捨て方をしておいて、今更優しいふりなんかして、一体何を考えているのだろう?
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