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「あんた知ってたの?!」
「知ってたって言うか、まあ、多少は聞いてた」
多少聞いてたって、なんだそれは。
私は、嬉しさと恥ずかしさと、そして、自分の小ささ愚かさに、全身が得体の知れない悲鳴を上げているというのに。
「安野がね、友達経由で俺の誕生日を知ったわけ」
「うん、で?」
あんたの誕生日を知って、それでなぜこうなるわけ。
「そしたら安野、『初めてだから、しっかりお祝いしなきゃ』って張り切って。で、それ」
「あんたは何か貰ったの?」
「何も。安野の家では、それが常識なんだって。お母さんには、子供の誕生日分お祝いの日があるんだって。子供側、つまり安野の方も、自分の誕生日にはお父さんと一緒になってお母さんに感謝する日なんだって」
「……誰の考えなのかしら……」
「安野のお父さん。安野の誕生日だけは、特別に【お母さんに感謝する日】って決められてるみたい。だから、俺の誕生日は、俺の母親に感謝する日なんだって言うわけ」
あの、控え目で大人しそうな少女は、私のためにこれを選んでくれたのか。
そして、一生懸命伝えてくれたのだ。
『圭太くんの誕生日、おめでとうございます。圭太くんを生んでくれて、ありがとうございます。これからも、よろしくお願いします。』
なんて可愛い子なんだろう。
私は、こんな優しい子に、ともすれば嫉妬をしていたのだ。
「安野さんのお母さんは、ご自身の誕生日にも祝ってもらえるの?」
「あ、それ俺も聞いてみた。そしたら、『お母さんがいなかったら私もいないから、盛大に祝う』ってさ。なんか、際限無い感じだよな。おばあさんとか祝ったりしないのかな」
「安野さんのお父さんの考えが始まりなら、そこだけの決まり事じゃない?」
「しっかしすげーな、それ。めちゃくちゃ綺麗だ」
「うん、とっても綺麗。黄色が好きなこと、知ってたのかしらね」
「いやー? 俺は言ってないけど。ていうか、黄色が好きなこと自体知らなかったし」
薄情者めが。
でも、そんなことどうでもいいか。
偶然でもなんでも、いい。
【おめでとう】と【ありがとう】を同時に貰えた私は、本当に幸福者だ。
今夜はのんびりと、息子が生まれた18年前のあの日の事を、家族に聞かせよう。
私がどれだけ嬉しかったか、夫がどれだけ喜んでくれたか、そして、生まれたばかりの息子が、どれだけ愛しく可愛かったかを。
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