おめでとう

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  振り返ればこの40年。 さほど高い山も登山せず、さして深い谷底をさ迷ったこともなく、凪ぎいた平穏な人生を送ってきた。 平凡な人生を嘆くのは至極贅沢な事で、だから私は、自分の今までと現状に十分満足している。 夫とは恋愛した末に結ばれた。 幸福な結婚だった。 子宝にも恵まれた。 息子が1人と、娘が2人。 5人家族で賑やかに過ごす日々は、私が思い描いていた理想の家族像だ。 何ひとつ不自由はなく、不平不満がもれる僅かな亀裂や穴もない。 それなのに、今日『40歳』を迎えた私の心は、こうも落ち込み嘆き悲しんでいる。 なんだろう、この胸の暗闇は。 「これ、プレゼント」 部屋の明かりが強制的に消されたので、鉄則通りろうそくに灯された火を思いきり吹き消して顔を上げると、長男が四角い箱を差し出した。 可愛らしくラッピングされて、赤いリボンが巻かれている。 「え? なに? 毎年花束なのにどうしたのよ」 「いいから開けてみてって。多分、いや、絶対気に入ると思うよー」 「本当?」 意味深な長男の笑みが不気味に映るも、私はかなり嬉しかった。 包装紙を丁寧に開いて、上から被された箱の蓋をゆっくり外す。 「………うはーー……」 財布だった。 「……なんで?」 「だってボロボロだったじゃん。学生時代に友達と一緒に買って、それから一度も買い換えてないとか言ってなかった?」 そう、当り。  端々はほつれて糸がぴろぴろ飛び出し、レジで財布を出すのさえ躊躇うほど年期の入った代物。 「ありがとう、可愛い財布。お母さんのどストライクのデザインよ。自分で買うとしたら正にこんな財布選んでた」 涙が出そうになった。 本当に、今一番欲しいものが、これだったのだ。 「彼女が選んでくれた」 涙が一瞬で引っ込んだ。 表情がひきつったことを悟られまいと、焦った。 「そーなの? 彼女のセンス最高じゃない」 「うん。母さんが持ってた財布のブランド名と、色と形を教えたら、あれこれ悩んでこれを選んでくれた」 「そっかー。お礼言わなきゃねえ。さすが女子だわー」
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