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新しい財布は、私の通勤バックにしっくりと収まった。
使い勝手も大変よく、手持ちのカードの枚数を知っていたかのように、スマートに入れ換えることが出来た。
私の財布が新調されたことなど、世間にはどうでもいいことなのに、バックから取り出す度になぜか誇らしく感じた。
いつものようにパートを終えてスーパーで買い物をしていると、店内のあちこちに笹が設置されていることに気が付いた。
入り口付近にもレジ付近にも、ずいぶん大きな笹の木が立っている。
そうか、もうすぐ七夕だ。
よく見ると、笹の木の脇にはテーブルが置かれ、短冊とペンと、【ご自由に願い事をどうぞ】のメッセージ。
そういえばこのスーパーで毎年やっている七夕イベントだ。
でも私にとって7月は、息子の誕生日の月。
私の誕生日のちょうど2か月後。
今年で18歳になる。
初の人生の岐路に立つ年齢で、私も夫も、そして本人も、大学受験に向けて今から気合いを入れているのだ。
財布を貰ったお礼に、プレゼントは奮発しようか。
あの子が最近欲しがっているものは、何だろう。
レジを済ませて財布をしまいながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。
素直に、普通に、母親から子供への誕生日プレゼントを考えていればよかったのに。
また、暗闇が胸を覆った。
あの子の欲しいものは、彼女に伝えているのではないのか。
私からじゃなく、彼女にプレゼントされたいのでは。
だから、私には何も言ってこない。
去年の秋に付き合い始めた2人にとって、息子の誕生日は、初のイベントになる。
彼女の誕生日がいつなのかは知らないが、あの子の誕生日は、初めてだ。
きっと盛大に祝うのだろう。
きっと2人きりで祝うのだろう。
もうスペシャルディナーを用意しなくてよくなったのだろうか。
ケーキもいらないのだろうか。
干からびる喉の奥を意識して、私は混乱した。
何を怯え、何を焦っているのだろう。
子供はやがて巣立ち行く。
私の宝物であるけれど、私の物ではない。
混乱する、動悸がはやる。
こんな恐怖は初めてだ。
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