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7月。
もう既に、日本列島は手に負えないほど暑い。
溺れてもおかしくない湿度に、呼吸困難を覚えながらも、自転車での通勤で汗を流す。
首巻きの中の保冷剤も、職場に到着した頃には、すっかり溶けてふにゃふにゃだ。
こんな毎日があと二月ほど続くと考えただけでも、痩せ細ってしまう。
「鶴田さん。今日は息子君の誕生日ですねー!」
真向かいのデスクに座るパート仲間が嬉しそうに声を掛けてきた。
「あれ、なんで?」
「鶴田さんの卓上カレンダーに書いてますもん! いくつになるんでしたっけ?」
「18よ。身体だけ立派になって、中身はハナタレ小僧のまんま」
「いやいやそんなことないですよー? 息子君、イケてますし! 羨ましいなぁ、うちのは顔がジャイアンですからー」
「ぶっ」
思わず吹き出してしまう。
彼女は私より一回り年下で、お子さんもまだまだ幼く、子育ての最中だ。
確かに、8歳にしては身体が縦にも横にも大きくて、言葉遣いも乱暴に違いないけれど。
私の顔を見ては、『つるちゃーん!』と手を振って笑ってくれるので、とても可愛い子だ。
「今夜はパーティーですか?!」
「まあ、いつもより少し豪勢にね」
「楽しんで下さいねー!」
「作るの私だしー。片付けるのも私だしー」
唇を尖らせておどけると、周囲の職員さんまでが笑ったので、私も一緒に笑っておいた。
実は今日、息子から何も言われていない。
外出するとも、彼女を呼ぶとも、何も。
今朝も家を出る寸前まで迷ったのだが、こっちから聞くのもおかしいと思い、黙って先に家を出た。
買い物を迷うところだけれど、本当に外出しないのであれば、少しは豪華に準備しなければ。
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