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「ただいまー……」
レジ袋を両手に抱えて帰宅すると、奥から変わらず子供達の元気な返事が飛んできた。
小学5年と中学2年と高校3年。
下の2人はお兄ちゃんっ子で、息子がリビングに居るときは、常に両隣を固めている。
聞こえてきた声は3人の和音。
ドとミとソの『おかえり』だ。
少しずつ歳の離れたキョウダイなので、喧嘩することなく仲の良い関係を保っている。
歳が近ければ、不協和音を奏でたのだろうか。
息子は家にいる。
私の帰宅は5時半を過ぎるため、この時点でいるとなると、外出はない。
夕飯の買い物を済ませる前に連絡するのが我が家のルールだから。
「お母さーん! 今日の晩御飯なにー? お兄の誕生日だもん、お肉系だよねー?」
次女の質問に、私は袋を掲げながら頷く。
「特製ハンバーグ。カボチャのポタージュ。特大海老フライ。ミカンの缶詰めとリンゴ入りのマカロニサラダ。その他もろもろ」
「いヤッホーー!!」
と、なぜか長女がガッツポーズするのを見て、隣で長男が顔をしかめている。
そう。結局同じものを食べさせているのだから、余程変わった嗜好が無い限り、似通った好みになるのだろう。
チラリと息子を伺い見ると、最近はまっているという歴史小説を真剣に睨んでいる。
誕生日をアピールするでなく、プレゼントをせがむでもなく、変わらない長男の横顔。
やたら気に掛けているのは、私だけなのか。
そうだとすれば、やはり私は見苦しい。
「さて、と」
思考回路を断ち切るため、わざとらしく声を出し、エプロンを装着した。
お米を磨いでセットし、玉葱の皮を剥いて微塵切り。
コンタクトなので全く目に染みない。
せっせとハンバーグの種をこねて、冷蔵庫で寝かせて次の作業へ。
料理は手際の良さが大事だ。
あっちへこっちへ移動しながら、とっくに慣れた家事をこなしていく私は、完全に立派な主婦なのだろう。
この歳なのだから当たり前の現実だ。
おっと、また回路が繋がってしまった。
炊飯器のスイッチを入れて、私は大きく頭を振った。
ピーンポーン。
頭の振りすぎで軽く目眩を覚えたその時、リビング中にインターホンが鳴り響いた。
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