おめでとう

9/12
前へ
/12ページ
次へ
  「はーい!!」 リビングからありったけの声を張り上げて、火元を確認してから玄関に向かう。 「はーいはいはい! どちらさーん!」 「お荷物お届けに参りましたっ!」 宅配便か。 誰かがネットで何かを頼んでいたのだろうか。 「サインでも構いません?」 「構いませんよー! えっと、鶴田春枝さんですね?」 「え、そうですけど、私宛?」 訝りながらも伝票にサインし、託された大きな箱を見下ろすと、確かに宛名は私の名前になっていた。 次の配送が押しているのか、飛ぶように駆けてトラックに戻る背中を見送った後、改めて送り状の【送り主】を確認する。 「……安野……優香里?」 って、誰だそれは。 友達にも親戚にも思い当たる節はない。 でも宛名は間違いなく私のフルネームが正しく記されている。 「………」 それにしても、随分重たい荷物だ。 割れ物シールも貼られている。 備考欄には、綺麗な字で【置物】と書かれていた。 安野。 安野、やすの……。 『……やすのゆかりです。よろしくお願いします』。 ……あ。 思い出した。 息子の彼女だ。 心臓が逸り始めた。一体何事だろう、そしてこれは何だろう。 爆弾を手にした処理班のように、震える手で箱を持ったまま固まる。 いや、待てよ。よく考えれば今日は息子の誕生日だ。 つまり、これは息子への誕生日プレゼントなのではないだろうか。 高校生ならば、宛名を親にしてしまうミスも……いや、あるわけないか。 宛名を親にする必要があると考えるなら、普通は世帯主、つまり夫の名前で届くだろう。 従ってこれは、間違いなく『私』宛の物なのだ。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加