第一章〈謎の少女達〉

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…ピシャァン、と背後で雷が落ちたような感覚に陥った。 3M、ちゃんと手入れもされていて斬れ味も良さそうなこの二刀。なのにこのお値段、確かにお安い。 自分がもう少し金持ちが良かったら、こんなに冷や汗はかかなかった。 ああ、破産癖治さないとなぁ…。 私は立派な二刀を両手で大事そうに持ちながら、作り笑顔でレジへ持っていこうとすると、申し訳なさそうに顔を歪めるアオヤが止めに入ってきた。 「ま、待て。本当にい、いいのか…?」 心配するような目で見られながらも、私は作り笑顔で「ダイジョウブダヨ」と片言ながら言い放った。 ……ははっ、クエスト地獄が始まりそうだなぁ。 * そんな出来事を経て、私は自分が寝泊まりしている宿に帰ってきた。 「あ、おかえり」 留守をしてくれた、高橋千夏ことチナツが迎えてくれる。 唯一の気の許せる女友達…まぁ親友とも呼べるかな? 私はチナツの座ってるソファ目掛けて身体をダイブさせる。ダイブした反応でチナツの身体が浮き上がり、驚いた表情で私を見下ろした。 「ちょっ、何よ。どしたの、しぃ」 「3M飛びました。残りは2Mです。南無」 そんな私の様子に、察したような口を叩くチナツ。 「エンチャント?ならまだ軽いほうじゃない」 エンチャントとは、自分の持っている武器を魔法で強化させることである。ただし、運が悪い時は物凄くお金が飛ぶ。 「いえ、エンチャントではないっす。はー、嬉しい事の後には悲しい事が起きるって本当だなぁー…」 私はソファから飛び上がり、寝室へ向かう。 その中途半端な物言いに、チナツは納得なんか出来ないようで、寝室へと向かう私にさらに問い掛ける。 「えっ、悲しい出来事って何が起きたわけ?詳しく教えなさいよ!」 「チナツ…明日、例の狩場行くから付き合ってね……」 「は?めんどくさ……いや、別にいいけど本当気になるから教えなさいよって!!」 チナツなりに気を遣って前言撤回してくれたのだろう。私は微笑の裏にお金への切ない思いをひた隠しにしながら再び寝室へと向かう。 …さて、クエストでお金を稼ごうかとは思ったけど依頼主のところまで訪ねるのも面倒だし“例の狩場”で明日は稼ぐとしますか。
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