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――すごい。
理奈は初めて入った屋敷に面食らっていた。
「ここが理奈の部屋だ。荷物は今運ばせているから、そのうち届くだろう」
「えっと、どういうことですか?」
店の前で名指しされ、言われるがまま屋敷に連れてこられた理奈は、まだうまく事情が呑み込めていない。
そんな様子を察してか、漆間和馬は淡々とした口ぶりで言った。
「今日からここで暮らすんだ」
ますますわけが分からなくなる。俺の嫁だの、ここで暮らすだの、さっきから話が現実離れしすぎなのだ。
「あの、何をおっしゃっているのかがよく分からないんですが……」
恐々と漆間和馬を窺う。こうやって話している今も、本来であれば床に手を突いていなければならない相手だというのに……。
「ここで暮らすのが嫌なのか?」
漆間和馬は、露骨にイラッとした顔になる。
「あ、いや、えっと、あのー」
理奈は完全に固まってしまう。
ふいに、店の前でも想像した、磔の刑にされた自分の姿が浮かんだ。
ぶるるっ、と体が震え、早く何か答えなければと思うが、正解が分からない。
そもそもの前提が分からないのだ。
なぜ声を掛けられたのか。
なぜ嫁になって欲しいと言われたのか。
なぜここで暮らすことになるのか。
「一目惚れした」
カチンコチンの頭の中に、低い声がやけに響いた。
理奈がぽかんとしている間にも、漆間和馬は続けて言う。
「別に今すぐじゃなくて良い。ただ、いづれは嫁になってもらいたい」
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