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理奈は急いで駆け寄り、勢いよく襖を開ける。
するとそこには、三十代くらいだろうか。ややふっくらとした面立ちの女が正座をしてこちらを見つめていた。
理奈は初対面であるにも関わらず、包容力のあるその女に縋るように、必死になって話しだす。
「あの!私、人違いでここに連れて来られたみたいなんです!」
「えっ!?人違いですか?」
途端、女の顔に戸惑いが滲む。
だが理奈は構わず話し続ける。
「はい。当主様が一目惚れをされたとのことなんですが、私ではないんです!」
「えええっ!!どういうことでしょう!?」
女は理奈の言葉に目を見開き、口に手を当てて心底驚いている。
「私は当主様とお会いしたことがないんです!それにそもそも、私に一目惚れするわけが――」
ないんです、と言いかけたときだった。
「何の騒ぎだ。五条が大きい声を出すなんて珍しいな」
――漆間和馬!!!
「和馬様!申し訳ございません。理奈様が人違いだとおっしゃいまして」
「人違い?」
聞き返し、漆間和馬が理奈を見つめる。
そうして一歩、また一歩とゆっくりと近付いてくる。
すぐ目の前まで来たかと思えば、俯き気味の理奈を覗き込むようにして――切れ長の漆黒の瞳と、理奈の瞳がぶつかった。
思わずビクッと肩を揺らす。
心臓はもうはち切れそうだ。
すると、漆間和馬は理奈から女へと向き直り、
「五条、人違いではない。世話を頼む」
「はい!失礼いたしました」
そう言って、漆間和馬は再びどこかへ行ってしまった。
「えっと、あの……」
困惑する理奈に対して、
「理奈様、初めまして。今日から理奈様の世話役を務めさせていただきます、五条と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
五条という女は、ニコニコと嬉しそうに笑った。
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