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日の光できらきらと光り輝く海。
潮の香りが心地好い。
和馬はここ数日の光彩での出来事を――樹を抹消するように、目を瞑り深く息を吸った。
海とは不思議なものだといつも思う。
こうして目を瞑っていると、荒ぶった感情が波の音でトクトクと落ち着いていくのが分かる。
人を飲み込むほどの脅威を持ちながらも、まるごと包み込んでくれるような母性も確かにあるのだ。
やがて、ゆっくりと瞼をあげると、先ほどは気付かなかったが、海辺にぽつんと一つある巨大な岩の辺りに、二人の男女が寄り添うように立っていた。
二人とも薄っぺらい茶色の小袖を身に付け、女は髪をまとめ、頭に白い布を巻いている。
――身分の低い奴らだな。
そんなことを思いながら、ただぼんやり見ていただけだった。
しかし、次の瞬間――
和馬は瞬きすら忘れて、女から目が離せなくなった。
隣にいる男に向けて笑った、その無邪気な横顔。
その柔らかな笑顔に、どこか昔の記憶が重なるような気がした。だが、それが何なのかは思い出せない。
掴みどころのない引っ掛かりを感じながら、和馬はしばらくの間、その場を離れることが出来なかった。
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