第1章 Aaliyah

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第1章 Aaliyah

 夜明け前の闇は最も暗い。  僕は人生の終焉への扉である木に吊るされた丸い紐の穴の向こう側を見て、そう思った。果てしない……どこまで続くのか分からない闇。夜が明ける時間になっても、その深淵の奥がどれだけ先にあるのか分からない。  ギュッギュッと僕は木に括り付けた紐が、途中で解けることが無いか確認する。すると、標高の高い産地に特徴的な冷たい夜の空気が僕の肌を切り裂くように紐で擦った部位を嘲笑った。まるで、早々に事を成せとでも言うかのようだ。  気にするな、急がずとも僕はやる。目に見えることすら無い彼等を安心させるように、……大きく息を吸っては何度か分けて吐いた。僕の息が口から出ていく度に、白い靄が視界を揺らす。  視界の先には、人工の光と街では見ることが出来なかった星空があった。街を一望できるこの場所は、僕の小さな頃からの秘密基地だった。親も妹も友人も、汚らしい利己的な人間は誰一人ここにはいない。僕の……僕だけの秘密基地だ。     
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