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「実果ちゃん、これから市議会議員の安藤さんの家にお礼のご挨拶に行くから準備しなさい」
母の言動が理解できず、私は「何で?」と訊き返す。
「何でって、おじいちゃんが安藤さんに『どうかうちの孫をよろしくお願いします』って頭下げて言ってくれたからあんたは就職できたのよ。おじいちゃんのつての議員さんのおかげでいい仕事に就けたんだから、感謝しなきゃダメよ」
結局、私一人の力では、何もできない。
実力で勝ち取った内定が唯一の支えだと思っていたのに。
「おじいちゃんはあんたのためを思ってここまでやってくれたの」
ああ。この人たちは、私のためなんて言うけど、その行為が私の心臓をえぐっているとは思わないのだろうな。
涙が溢れた。
「よかったね。やっと決まった仕事だもんね。涙が出るほど嬉しいよね」
何て愚かな人種なのだろう。
これが、悔し涙、絶望の涙だとも知らずに。
私は今日も、声にならない声で叫んだ。
届くはずはないけれど、せめて自分の心の声だけは守りたくて。
ーー家族なんて、いらないーー
ーー私の人生なのにーー
ーーどうして勝手なことするの?ーー
ーー私が私の道を選んで、何が悪いの?ーー
必死に抵抗した。
心までは、支配されたくなくて。
声にならない声で、何度も罵倒した。
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