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呪縛
「あんたに一人暮らしなんか無理」
ああ。やっぱり。
「そんな贅沢する余裕があるなら、結婚資金貯めなさい」
この人には、何を言っても無駄なんだ。
「この不良娘!」
私はただ、“自立”したいだけなのに。
「私がどれだけ苦労して育てて来たと思ってるの!」
また始まった。
「あんたが一人暮らししたいと思っていたなんて、思ってもみなかった」
だって、一度も言ったことないから。
「お金もないのに。だいたいいくらかかると思ってるの。うちにはそんな贅沢する余裕なんてないんだからね」
私、これから社会人になるんだよ。社会人デビューと同時に実家を出るのは、贅沢なの?
「就職だってまだ決まってないのに、情けない」
それは、あんたが反対したから……。
せっかく決まりかけていたのに、あんなこといわれたら、誰だって傷つくよ。
「エステティシャン? そんなの水商売でしょ。人の体に触る仕事なんて、みっともないからやめなさい」
それ、教育に従事している人の言葉とは到底思えない発言なんですけど。
みっともないのは、寧ろあんたの方だろ。
「何で黙ってるの。黙ってたら何にもわからないでしょう。そんなんだから就職試験も全部ダメなんだよ。一人暮らしなんて、もってのほか!」
言えるわけ、ない。
言ったところで、わかってくれた?
「里佐ちゃんの方がしっかりしてるわ」
妹は、いつもおいしいところばかりもっていく。
「実果ちゃんはお姉ちゃんなのに、いつもオドオドして見苦しい」
見苦しい?
「素直じゃない。できないくせに、そうやって意地を張るから可愛げがない」
好きで意地張っているんじゃないんだよ。
「そんな子、男の人に相手にされなくて当然よ」
自分なんか、好きでもない男と結婚してすぐ離婚したくせに。
「そんなんじゃ、良い縁が来ないよ」
切りたい。今すぐに。
あんたとの、親子の縁を。
いっそのこと、あんたが私の本当の親じゃなければいいのに。
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