誕生日だからってイイことばかりがあるとは限らない

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彼は露骨に嫌な顔をして私を見ると、小さく息をつく。 「大丈夫か?」 そう言いながら自分のおでこをトントンと指差した。 「あ、ああ。うん、軽く擦っただけだからなんてことないよ」 「擦った? 見せてみろ」 「えっ? わ!」 彼が私の前髪をグイッとあげてきた。 驚いてワタワタしていると、色んな他人が見ているような気がして恥ずかしさに口をつぐんだ。 「……悪かった」 「あ、えっと、ほんと大丈夫だから、傷とかになる訳でもないし、少しだけ赤くなっただけだから」 「いや、女の顔に……」 「女って。あはは。かわいい子とかなら大変だけど、私だから」 「……オマエだって、普通にかわいい方なんだろ」 「へ?」 「違うのか?」 「いや……自分でかわいいかどうかはわからないし」 「……じゃあ、やっぱり。あれだ」 「あれ?」 「悪い事した」 本当に申し訳なさそうに言った彼はしょぼんと肩を落としていた。 「はい! 本日のパンは売り切れ!」 購買のおばちゃんがそう言うと、彼は目を見開いて顔をそちらに向けた。 「……マジか」 「もしかしてパン買おうと思ってた?」 「ん」 「ご、ごめんね。私が止めちゃったから」 「いや。俺が……いいんだ」 大きな体の彼を見て、ほっておけるわけがない。 「あ。あのさ」 「?」 「こ、コロッケパンなら譲ってもいいよ」 「……いいのか」 「うん」
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