Rジュウゴ

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 ざわざわと広いロビーが騒がしくなる。中から大勢の人が出てきて、皆なにやら楽しそうに話しながらロビーをあとにする。早くしないと次の上映が始まってしまう。だけどぼくはなかなかチケットを買うことができない。  中学校の卒業式が終わって高校へ入学するまでの長い春休み。ぼくは今日、初めてひとりで映画を観に来たんだ。ぼくが見たい映画は大好きなSF小説をアニメにしたもの。その小説は本当はお父さんが読んでいて、でも難しかったのか途中で放棄しちゃって、だからぼくが譲ってもらった。最初の数ページを読んだら途端に目が止まらなくなって、それから何度も読み返した話だ。  そんな大好きな小説がアニメ映画になって今、上映されている。だけど、ぼくはこの映画を観ることができない。それはこのアニメ映画が青少年にはふさわしくない暴力的で陰惨な表現があるからだ。そう、このSFアニメ映画はR15指定。そしてぼくはまだ十五歳になっていない。  ぼくの住む街から少し離れたショッピングモールの中にあるシネコン。ここだってぼくは今日、初めてきた。バスに乗って乗り換えもなく来たけれど、それだって今までのぼくにしたらかなりの大冒険だ。それだけじゃない。今日、ぼくはみんなに黙ってここに来ている。そろそろみんな、ぼくの姿が見えないことに気がついているだろう。きっと大騒ぎになって、ぼくが部屋に居なくて、お母さんは泣いているかもしれない。  でも、それでもどうしてもぼくはこの映画が観たかったんだ。どうしても十五歳になるまで待てなかったんだ。なのに、ぼくはチケット売り場とシネコンの入り口をうろうろと往復している。  お金が無いわけじゃない。財布にはおばあちゃんがくれたお年玉が手付かずで入っている。チケットだって自動発券機だし、きっと大人料金を払えば大丈夫。だけど、いくつもに分かれているシアターへの入り口に立つ映画館のスタッフにチケットを出して「きみ、本当は十五歳になってないよね」って止められたらどうしようと思うと、なかなか勇気が出なかった。  早くしないと映画が始まってしまう。この上映を逃すと今日は夜のレイトショーだけだ。当然それは見ることは出来ない。だから、絶対にこの上映を逃しちゃだめなんだけれど……。
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