Rジュウゴ

4/13
前へ
/13ページ
次へ
「……先生は何を観にきたんですか?」 「んー? 特別決めて無いんだよ。暇潰しにきただけだから、興味が惹かれたやつにしようかなっと。水瀬は?」  ぼくはちょっと迷ったけれど、入り口の上映案内表示板を指差して、 「これです」 「ああ、CMでやってたな。アニメか」  こくんと頷いたぼくの横で先生はその電子表記を確認すると、 「これ、もうすぐ上映開始じゃないか。水瀬はチケット買ったのか?」  ぼくは、いえ、と首を横に振った。金沢先生が不思議そうにぼくを見るから思わず、 「ぼく、見たいけれど見れないんです。まだ十五歳になっていないから」  先生がまた案内表示板を確認して、 「R15だからか? えっ? 水瀬は今度高校生だろ?」 「ぼくは早生まれだから、まだ十四なんです。あと五日で誕生日だけど、どうしても今日しか時間が無くて……、それで……」  何だかまた哀しくなってきた。実際に声も震えていたと思う。俯いたぼくの目に金沢先生の靴が見える。先生はおしゃれなエンジニアブーツを履いていた。  急に先生がぼくに問いかけた。 「水瀬、もしかして、おまえ、病院から抜け出してきたのか?」  ぼくは驚いて先生の顔を見た。金沢先生は真剣な表情でぼくを見つめている。もし、誰にも内緒で来たって言ったら怒られるのかな? でも、先生の視線は嘘なんかすぐにばれそうで、ぼくはまたこくんと頷いた。 「ご両親はおまえがここにひとりで居ることを知っているのか?」  ふるふると頭を横に振った。途端に金沢先生の口調が厳しくなる。 「まさか誰にも知らせずにここに来たのか」  やっぱり金沢先生の声は怒っている。ぼくは思わず、ぎゅっと目を瞑った。  何をやっているんだ、早く帰りなさい、という言葉が降ってくるのを待っていたけれど、予想に反して金沢先生は、「体調は大丈夫なんだな」と、ぼくの体を気づかってくれる。 「でも、何も今日じゃなくても後日、親御さんか友達と来れば良いじゃないか。それにあと五日で誕生日なら、大手を振って見られるのに」 「……お父さんは単身赴任だし、お母さんもぼくだけじゃなくて妹の面倒もみないといけないから。友だちは……、いません」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加