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「……先生は何を観にきたんですか?」
「んー? 特別決めて無いんだよ。暇潰しにきただけだから、興味が惹かれたやつにしようかなっと。水瀬は?」
ぼくはちょっと迷ったけれど、入り口の上映案内表示板を指差して、
「これです」
「ああ、CMでやってたな。アニメか」
こくんと頷いたぼくの横で先生はその電子表記を確認すると、
「これ、もうすぐ上映開始じゃないか。水瀬はチケット買ったのか?」
ぼくは、いえ、と首を横に振った。金沢先生が不思議そうにぼくを見るから思わず、
「ぼく、見たいけれど見れないんです。まだ十五歳になっていないから」
先生がまた案内表示板を確認して、
「R15だからか? えっ? 水瀬は今度高校生だろ?」
「ぼくは早生まれだから、まだ十四なんです。あと五日で誕生日だけど、どうしても今日しか時間が無くて……、それで……」
何だかまた哀しくなってきた。実際に声も震えていたと思う。俯いたぼくの目に金沢先生の靴が見える。先生はおしゃれなエンジニアブーツを履いていた。
急に先生がぼくに問いかけた。
「水瀬、もしかして、おまえ、病院から抜け出してきたのか?」
ぼくは驚いて先生の顔を見た。金沢先生は真剣な表情でぼくを見つめている。もし、誰にも内緒で来たって言ったら怒られるのかな? でも、先生の視線は嘘なんかすぐにばれそうで、ぼくはまたこくんと頷いた。
「ご両親はおまえがここにひとりで居ることを知っているのか?」
ふるふると頭を横に振った。途端に金沢先生の口調が厳しくなる。
「まさか誰にも知らせずにここに来たのか」
やっぱり金沢先生の声は怒っている。ぼくは思わず、ぎゅっと目を瞑った。
何をやっているんだ、早く帰りなさい、という言葉が降ってくるのを待っていたけれど、予想に反して金沢先生は、「体調は大丈夫なんだな」と、ぼくの体を気づかってくれる。
「でも、何も今日じゃなくても後日、親御さんか友達と来れば良いじゃないか。それにあと五日で誕生日なら、大手を振って見られるのに」
「……お父さんは単身赴任だし、お母さんもぼくだけじゃなくて妹の面倒もみないといけないから。友だちは……、いません」
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