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「こらこら、そんなに急がなくても大丈夫だよ」
ついつい足が早くなるぼくに金沢先生が後ろから声をかける。チケットはすんなりと買えたけれど、売店に凄く人が並んでいて、ぼくはとても焦っていた。やっとポップコーンとコーラを二つ買って、あれほど「きみ、十五歳じゃ無いよね」って止められると思っていた入り口も呆気なく通れて、ぼくのわくわくはポップコーンのように弾けそうになっている。
目当ての映画の入場案内はとっくに終わっている。早くしないと始まっちゃう。
「最初のほうはCMや他の映画の紹介ばかりだよ。ああっ、ほら、そんなに焦るから」
シアターの扉を開けて、中に入ろうとして足がつんのめる。それを金沢先生は片手にポップコーンとコーラを乗せたトレイを持ったまま、もう片方の手でぼくの体を支えてくれた。脇腹に差し込まれた手が大きくて力強くて、思いの外、金沢先生が近くて、ぼくの胸はさっきからドキドキしたりわくわくしたり焦ったりと忙しくて仕方がない。
薄く照明が落とされたシアターの中を席を探して歩く。金沢先生が言ったとおり、スクリーンには他の映画の案内が映し出されていた。館内は人の気配があまりしない。もうこの映画の上映期間が終わるからだろう。
金沢先生はぼくの背中に手を添えて、席まで注意深く連れていってくれた。ぼくらの座席の列には、誰もいない。おまけに前も後ろの席にも誰も座っていなかった。
「ほら、水瀬、コーラ」
先生にやけに大きなコーラのカップを渡された。絶対にこんなに飲みきれない。先生はぼくの隣に落ち着くと、早速ストローを咥えてコーラを飲み始めた。先生もコーラを飲むんだなって不思議に思った。
「これも食え。旨いぞ」
ポップコーンを目の前に差し出された。とても甘くて美味しそうな匂いがする。スクリーンでは映画泥棒って映像が流れてて、ぼくはそれをチラチラ見ながらマスクを外して、ポップコーンをつまんで口に入れた。
ぼくが小さい頃に食べたポップコーンとは違う。何かがかかってるのかな?
「甘いの、初めて食べました。おいしいです」
「そうかそうか。やっぱり水瀬に合わせてキャラメル味にして良かった」
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