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脱いでソファの背に掛けていた上着をグレイは肩に羽織る。今だ夢見心地な表情の婦人をその場に置いたまま、グレイは会場を後にしていた。
躰が疼く──
血を得たお陰で躰中が熱を帯ている。
グレイの動きは知らぬ内に早くなり、邸へ向かっていた。
月明かりの灯る外と比べ、明かりを差さない部屋は一段と暗い。そして急に開いた扉にルナは驚きの悲鳴を上げていた。
「いちいち騒ぐな…」
口を手のひらで塞がれる。
俯せていた顔を躰ごと仰向けにされ、ルナは自分に跨がるグレイに目を見開いていた。
「離してっ……」
「───…っ…」
頭の下にあった枕を掴み、ルナはグレイを何度も殴り付ける。
息をきらし大きすぎる枕を振り回しながらルナは少しずつ大人しくなっていった。
可笑しい…
ルナはふと思った。普段なら枕を魔力で弾き飛ばすか強引に腕を押さえ付けるかしそうなものを、グレイは抵抗一つする仕草を見せなかった。
それが返ってなんだが怖い。
ルナは恐る恐る顔を上げてグレイを見た。
「気が済んだか」
「───…っ…」
乱れて顔に掛かる髪をグレイはゆっくり掻き上げる。
そして微かに怯えるルナを覗き込んでいた。
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