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「リドリー…」
ルナはポツリと呟いた。たしかグレイもモーリスもそう呼んでいた筈だ──
リドリーは自分の名前を覚えていたルナに素直に顔を綻ばせていた。
嬉しそうな表情が人懐っこさを感じさせる。
それでもこの綺麗な顔をした少年は人を喰う魔物、吸血鬼だ。
だが、ルナはもう怖いとは思わなかった──
何よりも人間が一番恐ろしい。ルナはそのことを知ってしまった。
だから今さら何も慌てることはない。
ルナは近づいてくるリドリーを見つめ返したままだった。
「中に入らないの?」
普通に尋ねてくるリドリーにルナは頷いて返す。
「こんな所、初めてだからどうしていいか……」
ルナは戸惑いながら座り込んだ膝を抱え答えていた。
「グレイ様は──…」
聞きながらリドリーははっと会場の二階を見上げていた。ワルツに紛れて狂ったような嬌声が頭に響いてくる。
同じ吸血種族の捕食の行為がどこかで行われている──
それは闇の主、まさしくグレイの行為に過ぎないだろう。
グレイは当分その場を動かない──
リドリーは上を見上げてそう汲むと、膝を抱えていたルナに手を差し伸べた。
「ここにずっと居ると冷えるから…僕で良ければエスコートさせて」
リドリーは優しく笑みを返しルナの手を掴んで牽いた。
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