15章 マイフェアレディ(後編)

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・ 「リドリー…」 ルナはポツリと呟いた。たしかグレイもモーリスもそう呼んでいた筈だ── リドリーは自分の名前を覚えていたルナに素直に顔を綻ばせていた。 嬉しそうな表情が人懐っこさを感じさせる。 それでもこの綺麗な顔をした少年は人を喰う魔物、吸血鬼だ。 だが、ルナはもう怖いとは思わなかった── 何よりも人間が一番恐ろしい。ルナはそのことを知ってしまった。 だから今さら何も慌てることはない。 ルナは近づいてくるリドリーを見つめ返したままだった。 「中に入らないの?」 普通に尋ねてくるリドリーにルナは頷いて返す。 「こんな所、初めてだからどうしていいか……」 ルナは戸惑いながら座り込んだ膝を抱え答えていた。 「グレイ様は──…」 聞きながらリドリーははっと会場の二階を見上げていた。ワルツに紛れて狂ったような嬌声が頭に響いてくる。 同じ吸血種族の捕食の行為がどこかで行われている── それは闇の主、まさしくグレイの行為に過ぎないだろう。 グレイは当分その場を動かない── リドリーは上を見上げてそう汲むと、膝を抱えていたルナに手を差し伸べた。 「ここにずっと居ると冷えるから…僕で良ければエスコートさせて」 リドリーは優しく笑みを返しルナの手を掴んで牽いた。
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