10人が本棚に入れています
本棚に追加
エピローグ 2017年8月8日
「あ、飛行機雲」
8月の真っ青な空に白いクレヨンで線を引いたように、すーっと伸びてゆく。午前中だというのに目もくらむ日差しだ。
「さてと…今日も頑張るか」
京介はカフェの通用口を大きく開けて荷物を運び込む。
「おはようございまーす!手伝います」
「や。水野さん、早いね。助かるよ」
この春に雇ったパティシエ、水野が元気よく挨拶してきた。
「スイーツの味が落ちたとか言われたら一子さんに合わせる顔、ないですから!」
水野のスイーツも好評だ。この調子だと今年も夏のスイーツフェアは予定通りに開催できそうだ。
「いやいや。水野スイーツ。物語があるよね。七夕ゼリーとか美味しかった」
野菜を運びながら言った。
「そうですかー?嬉しいです」
一息ついたところで電話が鳴った。
「あ…ごめん。雅彦?」
水野が息を詰めて電話する京介を見つめている。
「女の子?おめでとう!」
水野が声を出さずに万歳をして飛び跳ねた。
「で?一子は無事か?ああ…篠には俺が連絡するよ。
いよいよ父親だな雅彦。俺も篠もおじさんかーなんだか信じられないな」
世界にあふれている疑問は解けないし、割り切れない事も多くある。子供の頃に描いていた大人とは違ったものになったけれど…種は芽吹き、人は生きる。
クインテリオンか。篠。お前のおかげで幸せだと思える日が来たよ。
大きく開け放った通用口から夏の風が爽やかに吹き抜けていった。
了
最初のコメントを投稿しよう!