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8月12日 深夜
夕方の豪雨はすっかり止み、汚れを洗い流された都会の夜空にはかすかに星が瞬いている。
風がない夜。夜だというのになかなか気温は下がらず、不快指数を上げていた。
「篠。ごめんねぇ。夕方、ずぶ濡れで来たかと思ったら無茶な呑み方して…止めたんだけど」
馴染みのミックスバー。マスターがカウンターで突っ伏して爆睡している京介を見ながらため息をついた。
「ううん。ありがとう。連絡もらえて助かった。すぐに来たかったんだけど、仕事抜けられなくて」
「ホントごめんね。京ちゃん狙いのヤツが呑ませるもんだから。持って帰られないようにするのが精一杯だったのよ」
「他のお客さんに迷惑かけてない?」
篠は京介の細い身体を難なく抱き上げる。雨に濡れたせいだろう。すっかり冷え切っていた。
「それは大丈夫だけどさぁ…もう何年もこんな呑み方してなかったのに。なんかあったの?」
「…わからない」
篠はマスターに礼を述べると店を後にした。
京介は篠の腕の中で静かに寝息を立てている。篠の顔が泣きそうに歪んだ。
真夏の夜の空気が二人に重くのしかかっていた。
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