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クインテリオンから飛び出し、ずぶ濡れのまま酔い潰れた翌日、案の定、高熱を出して寝込んでしまった。そこから風邪をこじらせ、肺炎になって入院。随分回復してきたが、もうしばらくかかりそうだ。
京介を病院に運んだのは篠だ。行きがかり上、両親に篠の事を…自分の事を打ち明けた。長い事、この日の事を想像しては悩みを繰り返していたのに、自分でも不思議な程冷静に話していた。
父親は黙って聞いていた。母親はただただ泣いていた。なんの涙かは分からなかった。
帰り際、父親が一子は知っているのかと聞いてきた。
「うん。知ってるよ。そうじゃなければ一緒に店とかできなかった」
父親はそうかと呟いた。しばらく黙っていたが…
「一子が来たいと言っているがいいか?」
「…嫌だ。絶対。今は誰にも会いたくない。俺の事は…篠に頼みたい」
わかったと一言。病室を後にした。廊下で篠と何か話しているようだった。多分、入院手続きの事だろう。そうでなくてももうどうでもよかった。
篠は毎日夕方に、見舞いという体で顔を出して、京介の世話を焼いてゆく。それ以外の時間はほとんどを寝て過ごした。自分でもよくこんなに眠れるものだと呆れるくらい眠った。
「…篠、お前、仕事、どうしてんの?」
入院して1週間が過ぎた頃に聞いた。
「ん?仕事?しばらく早上がりさせてもらうことにしたんだ。なんだかんだと休日出勤も多いし、有給も溜まってるしね」
さも大した事じゃないという感じで明るく答えるが、この時間を作るためにしゃかりきになっているだろうと思うと胸が傷んだ。
「悪いな」
「うわ…先輩が悪いなって!どうしたの?」
「まるで俺が人でなしみたいな言い方」
「人でなしじゃないけど、つれないよねー会った時から」
ふふふ…と小さく笑うと
「ま、そんなトコも含めて好きになっちゃったんだけどねー」
「バカか」
ふと黙って、二人、テレビを見る。
「こんな時間にお前とテレビ見てるって変な感じだ」
「そうだねー。先輩がカフェ始めてからはないよね。入院はアレだけど、僕はちょっと嬉しいかな。先輩が僕のいう事をちゃんと聞いている」
「さっきからさ、俺ってどんなにひどいヤツな訳?」
「だから、先輩になら振り回されてもいいって言ってんの」
「Mか!」
京介のツッコミに二人密やかに笑った。また黙ってテレビを見る。
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