3人が本棚に入れています
本棚に追加
scene2
そんなわけで、万条目ゲンキの目覚めは最悪だった。
寝汗で布団がびしょ濡れの上に、頭が酷く重い。
しかし、見慣れた部屋の風景と自分の身体が人間の肢体である事を確認して、不快感極まりない覚醒に僅かな安堵を感じたのも事実だ。
「夢か…」
口に出してみる。
当たり前の事なのに発声できた事実が嬉しい。
ムカデは喋らないからな、と安堵の理由を意識にしてみる。それ程に今しがた見た夢は、やけに、こう…生々しかった。自分の異形化した身体が発する生臭い体臭を嗅いでいた感覚が残っている。嗅覚までも意識するようなリアルな夢だった。
「カフカかよ…」
無意識に『朝、目覚めたら巨大な毒虫になっていた男の話』を書いた小説家の名前を口にしていた。確か、作品のタイトルは『変身』だ。特に好きな作家でも、その作品に傾倒していた訳でもないが、自分の夢と作品の内容が持つ嫌悪感がそっくりだったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!