第一話 ファースト・ライト

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 カーテンの隙間から漏れる朝の陽が目に入り、ハッとして時計を見る。いつもの起床時間を十分ほど過ぎていた。 『悪夢を見たから凹んでた』は、流石に遅刻の理由にはならない。  唯でさえ、朝は一日の中でも時計の針がひときわ早く動く時間帯だ。大急ぎで顔を洗い、制服を着る。  ボタンを留めながら台所に行くと、固形ブロック状栄養補助食を大量のストックから一箱取り上げると市販の野菜ジュースで胃袋に流し込んだ。  ゲンキは一人暮らしである。  ちょっと美人のいとこやら、押しかけ女房的幼なじみやら、そんなラブコメ設定の朝食を作ってくれる同居人も、もちろんいない。  両親は外交官であり、必然的に一人息子の彼も幼い頃は両親の赴任先をついて廻る海外暮らしが続いていた。  特に長かったのはイスラエルで、直近の7年間を過ごした。多感な思春期の7年間である。母国はイスラエル。といっても言い過ぎではない。だから、両親に徹底的に叩き込まれた日本語以外は、もうヘブライ語しか喋れなかった。  昨年、十六歳になるのを期に、日本人としてのアイデンティティーを植え付けようとする両親の意図とゲンキ自身の日本に対する興味から、高校生にして一軒家に一人暮らしという、それこそ日本のマンガあたりにありがちな設定の生活環境に置かれてる―。  と、万条目ゲンキのプロフィールは、こんな風に(彼自身の記憶の中では)整合されていた。
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