消えない泡(Foam not to disappear)

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 友次はフリーターでもリタイヤでもない。本職は、芸術家。丘の上の一角に建つ自宅兼アトリエで創作を行っている。  ジャンルは、現代アート。現代アートとは何か。はっきり言って、よくわからない。時々訪れる友次のアトリエで、制作途中の作品を目にすることもある。それがアートなのか、ただの物体なのか、何なのかが理解できず、ただ目を丸くする。そんな私に友次は「感じてくれれば良い」とだけ言って目を細める。  街に出ると、独特の雰囲気のあるオブジェなどをよく見かける。気をつけてみると、ここにもあそこにもといった具合に、意外とたくさんあることに気付く。「現代アートは身近でフレンドリー」と友次は言う。確かにガラスケースに大事に囲われているわけでもなく、多くが近づいて触ったりすることもできる。  友次の作品ではないにしてもなぜか親近感が湧き、いくつかをすぐそばからじーっと眺めてみた。プレートにある英語のタイトルも解説も読んでみた。けれども大抵は「ふーん」で終わった。そう感じてしまう自分には、アートのセンスなど全くないのかもしれないと少し落ち込んだ。 「芸術家の頭の中は、一般人とは違うんだよ」  お正月の新年会にみんなで集まった時に言うと、友次はいつものように目を細めてさらりと返した。 「そんなことないよ。友美と同じように海は綺麗だと思うし、正月料理は美味いと思うし、サーフィンは楽しくてずっと続けたいと思うし」  私はやはり、「ふーん」とストローでジュースを飲むときのように唇をすぼめた。
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