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最初の誕生日カードは、私が母から誕生したその日にまでさかのぼる。以来毎年必ず送られてくる。私の母が友次の姉という関係である。母が自分の弟を名まえで呼ぶため、娘の私も自然と母に習い、友次のことを「伯父さん」と呼んだことはない。友次も名まえで呼ばれる方が良いという。
母から聞くところによると、友美という私の名まえは友次がつけてくれたという。結婚せず、子どももいない友次にとって、私はとにかくかわいい姪っ子らしい。
毎年届く気合いの入った手作りカードは、世界に一つのアート作品。ある年はロボット化された私の肖像画に笑わされ、ある年は緻密なポップアップのクラフトに脳を刺激され、ある年は写真かと思うほど忠実に再現された風景画に「絵画もできます」との主張を見せつけられた。
物のプレゼントよりもずっと価値が高いと思っている。今年のカードもどれだけ凄いのだろう。
『友美、誕生日おめでとう。時間をかけたプロジェクトが完成したから見に来て』
少しだけ拍子抜けする。中から出てきたのは、東京で行われる現代アート・エキシビションの招待状だった。友次が数か月にわたる壮大なプロジェクトに取り組んでいたのは知っている。それが仕上がったのだ。
『タイトル:消えない泡(Foam not to disappear)』
文字だけではその内容は分からない。同封されたパンフレットによると、「海」をメインテーマとした特別グループ展の一角を担うらしい。
早速、招待へのお礼と、もちろん行くとメールを送ると、直後からピキンピキンというスマホの着信音が続いた。画面の上から下までスマイルマークが羅列する。一個でいいのにと小さく笑った。
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