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「あと、刻まれた日付が何年も前なんてのもザラ。十年前とか、二十年以上前のものだってあるんだよ」
「そんなにずっと海の中を流れているんだ」
「海岸にたどり着いたものはまだ良い。一度海にもまれたものの多くは、海流に流されて永遠に旅を続けるんだ。誰も拾ってくれない終わりのない旅。今の海には、そんな旅のルートが出来上がってしまっている。魚や海の生き物たちが利用していたはずのその道を、今はゴミたちが無言で渡っていく」
「消えない泡として……」
友次が何とも言えない表情で肩をすくめた。
「友美に伝わったなら嬉しいよ。はい。プレゼント。誕生日おめでとう」
スーツの内ポケットから差し出されたのは、新たな封筒だった。
「え? プレゼントはこの展示会の招待じゃ……」
「イイから開けてみて」
首をかしげながらそれを受け取り、封を切った。
「ミュージアム・オブ……ニューヨーク!?」
「こっちがホントのプレゼント。大学の合格祝いも兼ねて」
伯父の友次がどれだけ自分の姪っ子をかわいがっているのかはわからない。ただ、おかげで友次がオファーを受けたニューヨークの展示会について行けることが決まった。
メディア向けのプレスカンファレンスで、友次は『消えない泡(Foam not to disappear)』とタイトルされたこの作品とメッセージを世界に伝えたいと、静かにけれども熱く語った。
私の進路先のコースはジャーナリズム。友次の自慢の姪っ子となれるよう、これからもしっかりと勉強してメッセージを伝える手伝いをしよう。ニューヨーク旅行の誕生日プレゼントに喜んでいる暇はない。
おわり
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