だって、泣いてても仕方ないじゃない

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 「はい、スッゲー綺麗っす!」  オレの声に、相方が再び顔を挙げる。  よくある顔。あちらこちらで見かける、短めの黒髪…少し茶色いのは、多分染めてるとかじゃなくて、生来のもの。  黒ぶちの眼鏡した先輩の方がイケメンなのに、その人はオレの言葉に笑った瞬間、めちゃくちゃ魅力的になった。  周りの一年生、特に女子の視線が集中した。  なのに、その人は熱い視線を受け流し、「さんきゅ」と呟いてまた刺繍に没頭してしまった。  …なんだ、今の、プチ爆弾みたいな衝撃は。  動かないオレに、黒ぶちの人が話しかけてきた。 「やってみる?けっこう簡単なんだよ」  断ろうと思ったのに、自然と手が伸びた。  小さな布に、×で模様をつけていく。  すぐに模様がてきて面白かったケド、オレが一番面白かったのはニットだった。  金色の短いかぎ針で、丸いコースターを作った。 ずっと体験しているオレを見て、何人かの女子が体験したいと申し出たケド、その度に黒ぶちの人が、優しい声で断った。 「ごめん、男子限定なんだ、この手芸部」
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