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とある山の中腹に、ぽつりと神社がありました。
人の気配はなく、杉や楓の鬱蒼とした木々に囲まれて、昼間でも少しばかり薄暗く感じます。
そんな敷地の真ん中で、小さな社が寂しげに佇んでいました。木造の柱や壁は黒くくすんでいて、軒下には古い蜘蛛の巣が風に吹かれ、掴んだ落葉を放すまいとしています。
屋根は赤かったのだろう、と思わせる程度の色で、落葉をたくさん被っていました。
入口には苔を生やした木の鳥居が、やっぱり寂しそうに参道の階段を見下ろしていて、両隣に寄り添う二匹の狐は、つまらなさそうに互いを見つめ合っています。
神さまは社の中でぼんやりと毎日を過ごしていました。
昔はこんな風ではなかったのに、と落ち込むばかり。
そう、昔は山の麓にあった村から、いつも村人が訪ねてきました。そうして鈴を鳴らし、手を鳴らし、心の声を聞かせてくれました。
時には、子どもたちがじゃんけんをしながら階段を上ってきて、それから社の周りで鬼ごっこなどをして、楽しい笑い声を聞かせてくれました。
神さまは、そんな人々の声が聴こえる毎日が大好きでした。
けれど、ある日、村は消えてしまいました。
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