マンハッタン

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小雨のせいか、なかなか静かな夜です。 カウンターの中、ボトルを拭きながら扉の横の小さな窓から視線を外さないマスター。 見習い二人は、何やらグラスを拭きながら話し合っています。 「だから、ね。女性が飲んで素敵だなぁと思うカクテルは、やっぱりマティーニだと思うの!」 「確かに、マティーニは味わいもドライだし、見た目にも美しい、だけど、それならギムレットだっていいじゃないか?もっとも僕は、ホワイトレディだと思っているけどね。」 うーん…どちらでも、素敵な人が飲むのならば男女関係ないと思いますが… 「マスターはどう思います?」 「カルーアミルク。」 「………。」 「いい?お客様は、その時の気分で、飲みたい酒を選べばいいんだ。何が素敵かは、そのお客様の雰囲気や振る舞いによって決まるもので、飲んでる酒の種類じゃないんだよ。」 さすがはマスター、言う事が違いますね。 「…。じゃぁ、マスターが今までで、素敵だなぁって印象に残ってる女性のお客様が飲んでたカクテルって何かありませんか?」 食い下がるのは、見習いバーメイド黒川。 「そうだな…マンハ…」 扉が開かれました。 さあ、今日の口開けのお客様です。 「いらっしゃいませ。」 「何名様でしょうか?」 「二人です。あれなんだ、今日はもしかして口開けかな?」 「いかがなさいます?カウンターが宜しいでしょうか?テーブルになさいますか?」 もちろんわたくしの席に。このお客様は知ってます。月に2度程のペースでいらっしゃる佐伯様。 「もちろんカウンターで頼むよ。」 二人のお客様は、カウンターの奥ほどの席にお座りになりました。 佐伯様のお連れの方はとてもお美しい女性。 普段お一人が多いお客様なので珍しい事でございます。 「ご注文はお決まりでしょうか?」 マスターがお相手します。 「僕はいつものマッカランをロックで…君は?」 「私は、マンハッタンを…」 「かしこまりました。」 マスターが席を離れ、見習い二人がそれぞれグラスとボトルを用意します。 マンハッタンはステアのカクテルです。 マスターは音をたてずに品よくステアし、華奢なカクテルグラスに赤みがかった琥珀色の液体を注ぎ、チェリーを飾って女性のお客様へ、マッカランはどっしりとしたロックグラスに注ぎ、佐伯様へ。 「お待たせ致しました。」
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