マンハッタン

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お二人はグラスを合わせずに乾杯をしました。 美しいお客様は、マンハッタンがピッタリとお似合いになります。 一口お飲みになり 「とても美味しい。」 と、その笑顔は愛らしい。 佐伯様はいつものように、グラスの氷を指で弄びながら、カラカラと音をたててから、ちびちびとゆっくりお飲みになります。 華やかな雰囲気、何時にも増して幸せそうな佐伯様… バーでは、よくある事ですが、不安を覚えたのはわたくしだけではないはずです。 マスターも、わたくし以上に不安に感じている事でしょう… 必ずしもとは申しませんが、こういった場合、どなたかが悲しい、あるいは淋しい思いをしている場合が多いのでございます。 佐伯様の様なお人柄の方ならば尚更の事… わたくしどもの心配をよそに、お二人は終始幸せな雰囲気を振り撒き、微笑みをかわしお飲みになります。 「マンハッタンは、この人に教えてもらったんです。」 美しいお客様が続けます。 「私はお酒は好きでしたけど、あまりバーには行かなくて…ウイスキーは飲んでいたけど、女性がロックグラスってなんだか怖いわよね?って話したら、じゃぁこれならって…」 お酒のせいでしょうか、多少饒舌になったご様子です。 「そうですね、マンハッタンは多少強いお酒でも平気と言う方なら、女性にはお勧めです。難しい事を抜きに、とても美しいカクテルですから。」 マスターの一言に笑顔で頷くお二人。 それぞれ3杯程お飲みになって、お二人は席を立たれました。 外は雨、先程までの小雨がいよいよ本降りになってきた様です。 「いやぁ、いよいよ降ってきたなぁ…。」 「傘はお持ちでしたか?」 「私持ってるから…。」 お二人は一本の傘に肩を寄せ合い店を後にしました。 「ありがとうございました。」 マスターは外で二人を見送り、肩にのった雨粒を掃いながら戻ってきました。 ちらほらとお客様の入った店内… そろそろ、忙しくなりはじめる時間帯です……… ……………………………
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