罪悪感

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しかし、その油断がいけなかった。 隙を見せた瞬間、突然青年は飛び掛かり、博士を床に押さえつける。 そして、隠し持っていた何かを博士の口に放り込んだ。 「やや、何を飲ませたんだ……」 「あなたの研究室から盗み出した例の薬ですよ。ごめんなさい……でも、こうするしかないんです」 申し訳なさそうにする青年を前に、博士はその素晴らしくも恐ろしき薬の効果を、身をもって知ることになる。 それはまさに劇的なものだった。 博士は急に頭を抱えたかと思うと、ぶるぶると震え始める。 そして、呻くように声を上げた。 「……ああ、私はなんてことをしたんだ。君をこれほどまでに追い込み、こんな罪深い真似までさせるなんて。全て君の言うとおりだ。こんな非人道的なやり方が許されるわけがない……」 深い罪悪感に喘ぐ博士は、慌てて立ちあがると、そのまま部屋を飛び出した。 真っすぐに向かった先は、自身の研究室。 そして、そこで大切に保管していた薬や研究データの全てを、ひとつ残らず処分してしまった。 青年のもとへ戻ってきた博士は、床に這いつくばって頭を下げる。 「これで償いになるとは思わないが、どうか許してほしい。こんなつもりではなかったんだ……」 すると、今度は青年の方も、同じように頭を下げ、心から詫びた。 「いえ、謝るのはこちらの方です。こうするしかなかったとはいえ、あなたにもこの苦しみを味わわせるなんて。どうか許してください……」 二人は抱き合って朝まで泣き続けた。
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