罪悪感

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とある精神科病院で、極秘裏の実験が行われようとしていた。 「博士、あそこに立っている青年が例の患者です」 「なるほど。まだ若いが、かなり酷い窃盗癖があるらしいね」 「ええ。何度も入退院を繰り返しています。治療の甲斐もむなしく、退院するとまたすぐ再犯に及ぶもので」 「ふむ。身寄りもないんだろう? 最初の実験材料としては申し分ないな」 博士と呼ばれた男は、どこか嬉しそうに不敵な笑みを浮かべる。 会話の内容とあわせて、いかにも怪しげな雰囲気。 「ところで、投与する予定の薬は、どういうものなんでしょうか? 詳しく聞かされていないのですが」 もう一人の助手らしき男が尋ねると、博士は誇らしげに語った。 「簡単に言うと、罪悪感を強める効果のある薬だ。最終的には、手の付けられない凶悪な犯罪者に使用することを想定している。この薬を飲めば、どんな犯罪者でも自身の罪深さを悔やむようになるだろう」 「それは凄い薬ですね。しかし、人格を強制的に変えようというのは、少々恐ろしい話でもありますが……」 その指摘に、博士は露骨に顔をしかめる。 「だからこそ極秘裏の実験なのだよ。世の中にはそういうことにうるさい連中もいるからな。おかげで私は、ひどく肩身の狭い思いをしながら、こそこそと隠れるように研究を重ねてきたのだ。しかし、それもようやく報われるだろう。今回の実験によって、この薬の素晴らしさを必ずや証明してみせるぞ」 鼻息を荒くして意気込む博士の下、いよいよ実験は行われることとなる。
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