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地球を旅立った空港のあるスウェーデンの時間に合わせて調光されている船内は「夜」の明るさになっている。
僕たちの移動に合わせて周囲は薄明るく照らされはするけれど、パクはどこからか取り出したペンライトで進行方向を照らしながら進んだ。
操縦室に到着し、エアロックを開く。
僕たちが端に寄せたアランの遺体は、数時間前に固定された場所にじっとたたずんでいた。
パクは無言のままペンライトを口にくわえ、ボディバッグのジッパーを下ろす。
丸く、明るいLEDライトの光に照らされた顔は、ひどいものだった。
「ふむ、やはり脳内出血……くも膜下出血あたりか」
口からライトをとり、遺体の隅々を照らしてゆく。
僕はその風船のように膨らんだどす黒い顔、見開かれたままで今にも飛び出しそうな目、ぽかんと開かれた口、そして紫色に変色した首筋を見て吐き気をこらえた。
正視できない僕は、早々に操縦室の外へと移動し、ちょうどよく調整された空気の中、少し震えながら深呼吸をする。
2~3分も経ったころだろうか、パクも調査を終えて部屋からぬっと顔を出した。
逃げ出した僕に勝ち誇ったような顔を向け、彼はエアロックを閉じる。
少し気まずいものを感じた僕は、務めて平静を装った。
「どう?」
「やはり外傷はない。死後の経過を見ても、脳内出血からの急死だろう」
「……パクは医者なの? それとも検視官?」
「小説家だ」
「小説家って、死因の特定までできるんだ」
「もちろんネットで調べたのだよ。日本人、お前の持っている端末は何のためにネットワークに繋がっているのかね?」
「……ああ。なるほど。……ところでいい加減その『お前』とか『日本人』とか呼ぶのはやめてもらえないかな? 僕にも一応蓼丸 宗也と言う名前があるんだ。宗也でいいよ」
「ならばお前も……宗也もパクと呼ぶのはやめるんだな。呼ぶならば『パク・ドンソクさん』か『ドンソクさん』だ」
「わかった。ドンソク」
「……頭が悪いのか、それともわざとやっているのか? 目上の者には敬称をつけろ。タメ口で呼ぶのを許すとしても『ドンソガ』だ」
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