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街外れにある、小さな丘を登ったところにそれはあった。空へと真っ直ぐ伸びた巨大な木の足元に、等間隔に並べられたそれには1つ1つ死者の名前が刻み込まれている。
そんな場所へ、空が薄白く霞み始める時間帯に男はふらふらとやって来ると、いつもと同じ場所に跪いた。男の目には生気が無く、その目には何も映していない。虚ろな瞳の下には黒い隈ができており、瞼は重く腫れあがっている。
(ああ、また、来たのね)
あまり食べていないのだろう。日に日に痩せ細っていく身体は見るに耐えない。そんな姿など見たくないというのに。
男のすぐ真横にしゃがみ込み、そっと男に手を伸ばす。けれどそれは届かなかった。伸ばされた右手は虚空を掴む。それでも伸ばさずにはいられない。男が毎日ここへ通うように。無駄だと分かっていてもやらずにはいられないのだ。
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