孤独

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「ありがとう。そしてごめんなさい」 凪いだ海面が、幾億もの光の粒子を浮かべる光景を眺めながら彼女は幽かな声で告げた。 夜半まで吹いた風が多くの雲を追い払い、未だ深い蒼に染まっている天が見えるが、小さな星達はもう姿を隠している。大きな星々も数える程しか瞬いていない。 「まだ早い」 「うん、分かっている。でも言える内にちゃんと告げたかったの」 細かく震える彼女に、私の吐息が掛からぬ様に気を付けながら会話する。 「もうすぐ、朝焼けが始まる」 「ええ、わたし幸せよ。貴方の様に優しい方と、あんなに美しいものに見送られるのだから」 光が薄く引き延ばされ重ねられて行く空には、既に星の姿は無く、千切れ雲の様に色を失った白い月だけがぼんやりと掛かっている。 東の空と海が明るい。 直に陽が昇る。 「君の美しい姿もはっきりと見えるな」 「ありがとう」 ほんの少しだけ、白い彼女が朝焼けの色に染まった気がした。 雲が柔らかな色彩を纏い始めている。 ほんのり夜空の紫を残していた筈が、静かに輝きを写し取り、暖かな色に染め上がって行く。 それは一時たりとも同じでいてはくれない。 瞬きするのさえ惜しい色彩の変化に、私達は意識を奪われ呼吸をするのさえ忘れる。
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