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ライブでのコンサートを楽しむために、最低限の情報を手に入れようと、翌日、結衣からアルバムを借りた。「シングルも貸そうか?」と言われたが、シングル曲はアルバムに収録されているので断った。すると、
「でもカップリング曲は入ってないよ?」
なおも勧められたが、
「や、そこまではいい」
と、一枚のアルバムだけを借りて、夏休み最初の週末にあるライブ当日に備えた。
予習のおかげで、周りの雰囲気に気圧されつつも、曲がわからないからノれないということもなく、コンサートも終盤を迎えようとしている。
「今日は本当にありがとうございました。デビューして一年経って、こんな大きなステージに立たせてもらえて、しかもこんなに沢山の人たちに聴いてもらえて、本当に幸せです。今わたしがここでこうして立っていられるのは、沢山のスタッフの方々と、みなさんのおかげです。本当に、心から感謝してます。ありがとうございます!」
ステージに立って深々と頭を下げる沢村柚葉に、芹称を含め、観客全員が拍手を送る。
「ありがとうございます」
頭を上げた柚葉が、満面の笑みでもう一度言って続ける。
「このツアーも、最終日、最終公演となって、ほんとに、とっても名残惜しいのですが、最後の曲になります」
「えー!!」
「ね。ホントに『えー!』だよね。わたしももっと歌ってたい」
寂しそうに微笑む彼女に、観客たちはまた、口々にそれぞれの思いを伝えるが、柚葉はそれらを苦笑で流して、
「この曲は、わたしが初めて作詞に挑戦した曲です。『overflow』聴いてください」
曲の世界に入った。
芹称にとってそれは、初めて耳にする曲だった。未発表の曲かとも思ったが、隣の結衣をはじめ、一緒に歌っている観客がいることから、シングルのカップリング曲だろうと見当をつける。
ミディアムテンポで耳に心地良く、歌詞が聴き取りやすい。
結衣が今までにないくらい一生懸命歌っているのを見て、
(この曲好きなんだ)
と、微笑ましくなった時、―――耳を奪われた。
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