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身体が覚えた見上げる角度 絡める指の感覚
会いたくて互いを求め合うのも 二人一緒がいい
耳を奪われ、次に、切なさが胸に込み上げてきた。理由もわからず泣きたくなって、まるでその答えを探すように、ステージ中央で歌っている柚葉を食い入るように見つめた。そこには、栗色の髪の、今まで見たどんな人よりも可愛らしい女性がいて、彼女は、当たり前だが、芹称のことなど見ていなかった。
「柚葉!!」
間奏に入ると、近くの席の誰かが、周りにいる誰よりも大きな声で彼女を呼んだ。その声に応えたのかどうかはわからないが、柚葉がこちらを向いた。そして二番のサビを歌い出す。
こんなに愛がそばに溢れて 二人を包み込む
聞こえてる あなたの愛してる
だってここにあるから 離れず今も ここに
身体はこちらを向いているが、どこを見ているのかわからない柚葉を、芹称は、説明のつかない切なさで見つめ、眼が離せない。
(どうして……?)
どうしてこんなに切なくなるの?
どうして今、こんなにも泣きたい気持ちになるの?
答えを求めたが、声にも出していないそれが聞こえたはずがない。けれど、心の中で問い掛けた直後、柚葉が芹称を見た。
「!!」
驚いた表情を見せたのは、芹称だけではなかった。
歓声を上げ、手を振って自分の名を呼ぶ多くの観客の中から、たった一人、泣きそうな眼差しで見つめてくる芹称を見つけた柚葉も、ほんの刹那、極々小さな、驚きの表情を見せた。それに気づいたのが芹称以外にいたとも思えないほどの、一瞬の出来事。
(何で?)
そう思った時には、ふわりと笑って、柚葉は正面に向き直って、最後の大サビを歌い出した。
(――ていうか、今、眼、合った、ってこと……?)
泣きたい気持ちが吹き飛んで、ドキドキしながらステージの上の柚葉を見ていたが、
「やーん!! 今、眼、合っちゃった!!」
大興奮で隣の結衣が芹称に向かって叫んだ。
(あ……)
きっと結衣だけじゃない。自分たちの周りにいる何人もが同じことを思ったに違いない。そんな事実に思い至って、もう終わりかけているその歌に再び聴き入った。
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