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 芹称は両手を叩いて無邪気に歓声を上げた。その反応に、 「わたしもびっくりした。そっち行ってもいい?」  この場に百人いたら、確実に九十人は眼を奪われてしまうであろう顔が笑みを深くして言った。 「どーぞ、どーぞ。すわって、すわって」  酔っ払いが、どう考えても成人女性が座れるスペースのない鉄骨をぽんぽん叩いて答える。柚葉はその様子にますます笑みを募らせると、楽しそうにジャングルジムに手をかけ、上を目指して登って来る。あっという間に上まで来て、頂上の一段下の段に腰を落ち着けると、 「こっちおいでよ」  酔っ払い芹称が、また小さなスペースを叩く。 「無理だよ」  柚葉が隠しきれない苦笑を漏らして応えると、 「じゃ、わたしが行く」  意外にしっかりとした足取りで芹称が一段下りる。  隣に座って、照れも臆面もなく相手の顔をまっすぐに見て、芹称がにっこりと笑う。その姿と顔が、幼い子どものように可愛らしくて、柚葉は思わず表情をほころばせる。しかしすぐに、 「あ!」  と、目と口を大きく開けて、 「あなた! オーラスの時の人!」  芹称の両肩を掴んで揺さぶりかからんばかりの勢いで声を上げた。その正面では、意味のわからない芹称が、ただきょとんと首をかしげる。 「えっと…、ツアーの最終日、最終公演に、来てくれてた、よね?」  もどかしそうに、と同時に興奮気味に尋ねる柚葉に、芹称はのんびりと頷く。 「うん。行ったよ」 「やっぱり! あの時! ――『overflow』歌った時、眼が合ったの、覚えてない?!」  必死に言い募る柚葉の言葉は、いとも容易く芹称に吸い取られる。 「覚えてるよー。すっごくすっごく切なくなって、泣きそうになって、柚葉のこと見たの。最初は全然こっち見てくれなくて、あーあ。って思ったけど、誰かが大きな声で柚葉のこと呼んだら、こっち向いたの。ちょっとびっくりしてたねー」  顔を横にして覗き込んで自分を見つめる芹称に、落ち着きを取り戻した柚葉は言う。 「うん。驚いた」 「どーしてー?」  背中にある鉄の棒を後ろ手に握り、芹称が立ち上がる。 「―――あなたが、泣きそうだったから」  空を見上げて、両手を上に突き出しはじめた、ほぼ初対面の女の子が、バランスを崩さないかと心配しつつも、柚葉は続ける。
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