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真っ白な雪は夜と共に本降りになった。明日の朝には積もっているだろう。
猫カ丁への道は雪で覆われている。
寒い夜中に歩き出る人間はいない。
茶店のこづちも早々に閉店する。
紺色の暖簾を片づけて、女将の小泉五月はすぐに店の中へひっ込んだ。
寒い上に人も来ない。これでは商売にはならない。今日はとことんついていない。
愚痴を溢してもだれもいない。閑古鳥が啼いている。酒好きの信濃が酔いつぶれて寝ているだけだった。信濃の栗色の髪の毛が眠っている頬の傷を隠している。本人いわく顔の傷は勲章という。長年の付き合いだ。五月も見馴れたものである。酒さえ呑まなければいい武士なのにと五月は思う。
五月は暖簾を店の奥へと片づけて、じぶんの食事の用意を始めた。
二階には居候が居たが今日はまだ戻ってきていない。
今日の夕飯は店の余り物で代用しょうと、人参だの大根を包丁で切り刻んで鍋にいれる。芋の子の皮を剥いてこれも鍋に突っ込んで芋の子汁を作った。下地となる味付けは味噌だ。白味噌を隣の町から買ってきている。大豆をはじめから蒸して潰して発酵させてという方法もあったが、五月は家を空けることが多いので買ってくる。味付けは他にも醤油という手もあったが五月は味噌にこだわった。単純に味噌が好きだったということもある。
冬なので野菜の品揃えはいまいちだったが、秋の味覚を保存できる技術は年々進化していた。雪室という穴を掘り、野菜を埋めておく。食べるときはそこから掘り出して食べるのだ。人というものはよく考え付くものだと五月は常々思っている。
芋の子が鍋のなかで煮えた。
漸く飯の時間だと白飯を棺からよそい、芋の子汁を茶碗に汲んだ。白菜の漬け物を小皿に添えて、夕飯を堪能する。芋の子汁の湯気で眼鏡が曇る。部屋のなかは外とは温度差があった。
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