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五月が食事を終えた頃、こづちに居候が帰ってきた。
名前を真田銀矢という。歳は二十歳を過ぎていた。
紺色の着物に半纏を着ている。藁靴を脱いで火鉢の前に駆け寄った。
「夕飯は?」
五月は茶碗を重ねた。
「要らない」
「どこかで食べてきたの?」
「食べる気にならない。風呂沸かすよ」
店に入ってきた青年の衣服には血糊がついていた。
「誰かやったの?」
五月は驚きもせずに聞いた。
「青葉の奴等は死なないとわからないのかな」
「青葉の奴等は死ぬことが勲章でしょう」
五月は茶碗を持ち上げて立ち上がる。
「敵だけど。変な考え方は改めてほしい」
「無理よ。それが青葉に従う忍の考え方だもの」
「頭がおかしくなりそうだ」
「そんなことを言っていたら青葉党と戦えなくなるでしょう」
「寒い。先に風呂」
青年は逃げるように部屋をでていった。
五月は茶碗を台所に片付けた。
火鉢のないところは寒い。
水で茶碗を洗うのは野菜を洗うのと同じくらい面倒であった。
青葉党は今昔の森のむこうがわに領土を構えている。
五月たちが所属する白夜党とは月影の乱以降、仲が悪い。
現在は戦というよりは一方的に襲ってくる青葉党の忍と殺し合うだけの日々だった。
今昔の森は戦闘領域であった。
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