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五月としては無駄な闘いを長引かせているとしか思えなかった。
月影の乱は花魁の取り合いだ。
当時の遊廓の最高峰であった紫は死んだのだ。
その時点で月影の乱が終わりを告げた筈だった。
それが数年前に紫の子供が見つかったというので、終わった戦が振り返したのだ。
五月は安息を求めていた。
こづちは友人の店を無くしたくないという理由で始めたのだ。
穏やかな日々がまた崩れそうになっている。危機感は日増しに濃くなる。
寒い季節に戦をする。その事事態が異常だった。軍師の九十九は身動きの取りずらい時期を選び、青葉党への攻撃を続けている。五月たち中忍が騒いでも聞きもしない。九十九の考えは遂行されていった。
血の臭い。鉄錆のような生臭い臭いが店のなかを徘徊しているようで辛かった。
五月は食器を洗う。水は冷たく指先に絡み付いていた。
「五月さん。寒い。温かい食べ物ちょうだいよ」
風呂に行った青年のあとに茶髪の青年がこづちへと入ってきた。狼の尻尾のように髪を結っている。年頃二十歳前後だろうか。幼い表情の青年で小さな鞄を片手に抱えていた。
「白羽。ちょっと待っていてくれる? ──今、持っていくから」
五月は茶碗を食器を拭きあげると、鍋から味噌汁を掬った。
白飯をよそい、白菜の漬け物を皿に載せて白羽に持っていくと片手を突き出した。
「五文頂きます」
「ええっ」
「こっちも商売だから」
「分かったよ。出せばいいんでしょ。出せば」
白羽は巾着を鞄から取り出して銭を払った。
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