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五月は満足した。売り上げの少ないときは仲間内でも取るものはとることにしている。不平不満は聞き入れない。店は趣味ではないのだ。
「小雪ちゃんの容態のことなんだけどさ」
食事をしながら白羽が言った。
「悪いの?」
「長引きそうなんだよね」
「そう、無理もない話だけど」
「怪我とかではないからね。簡単には治らないと僕は思ってる。経過観察が必要かな」
「今昔森、派手に焼かれたからね。青葉に」
「住んでた子供たちも散り散りになったみたいだ」
「殺されたり、焼き殺されたり──青葉の考えることが私にはわからない」
「佐久間を使っているからね。残虐性は増しているよ。白夜のお頭も相当頭にきてる。近々、攻め込むつもりらしい」
「やっとそこまで話が発展しているの?」
五月は白羽の隣に腰かけた。
「冬が過ぎるのを待つ意味がないって、ここへ来る途中に鴉から告げられた」
白羽が思い出したように飯を掻き込む。
暦でいうと雹雨三年冬の弥生だった。
雪はまだ溶け残る。
先日、今昔森の向こうに領土を構える青葉党の武士が、今昔森に火を放った。
目的は森に住んでいる子供たちを捕縛し、新たに兵として使うためであった。中には青葉に抵抗し殺された子供もいる。逃げようとして煙に巻かれて命を失った子供もいる。今昔森は現状、氷雨のお陰で炎は鎮火したものの足の踏み入れる場所ではなくなっていた。
春日小雪はその惨劇で生き残ったひとりだった。
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